第8章 保健医療
           
  つぶやき話のテーマ1:  服薬
           
  入所者の多くは何かの薬飲まれる。服薬のタイミングは食後が多い。           
 食前服薬は必ず薬を飲み込まれてから、食事を提供すること。
           
            
  介護福祉士(介護職員)は、医師や看護師の指導のもとに、限られた医療行為を行うことが           
 できる。その中に服薬介助がある。糖尿病のインスリン注射は看護師が行う。注射以外は介護           
 福祉士(職員)が服薬介助をする。食前の服薬は、看護師がほとんどが介助して済ませている。           
 さらに看護師はお膳盆に食後の薬を配布している。その薬を介護職員が食後に飲まれるよう           
 介助することになる。まずは提供されている薬が、目の前の人ものか、薬袋に記入されている           
 氏名を確認する。それから薬の受皿に落とし、服薬介助の準備にかかる。
           
  錠剤の薬を口に含み、白湯等で胃腸へ流し込める人は、服薬を勧めるだけですむ。問題は           
 錠剤を小石や砂と判断される人である。口に含むとペッと薬を吐き出される。ここからが介護           
 職員の服薬介助のノウハウが発揮される。お茶や味噌汁に少しとろみをつけて、とろみ内に           
 薬を紛れ込ませるのである。薬を味噌汁の具として食べてもらうのである。とろみ汁がなければ、           
 おかずに混ぜることになる。本当の食後ではないが服薬を徹底するためには、食間に服薬して           
 いることになる。
           
  鉄分を服薬される場合は、必ず白湯を利用してもらっている。便秘に悩まれる人は、下剤を           
 服薬されることがある。この錠剤を確実に飲んでもらうことが必要である。入浴の前に、便通を           
 済ませてもらうためである。もしタイミングがずれると、浴槽内での排便となる可能性が発生する。           
 お膳盆を下げる時、薬袋や薬の受皿に飲み残しがないか、お膳盆を見回さねばならない。           
 服薬介助は、医師・看護師と介護職員との重要な連携プレーである。
           
            
            
  つぶやき話のテーマ2:  インフルエンザ
           
  インフルエンザには、特効薬のタミフルを利用する。           
 インフルエンザは他人への感染予防対策が大変である。
           
            
  介護施設では感染症には大きな注意を払っている。毎年冬に訪れる病気がインフルエンザで           
 ある。一旦、施設内で発生すると、瞬く間に感染が広がっていく。まずは予防対策が必要である。           
 初冬に、看護師・介護職員はインフルエンザの予防接種を受ける。それから手洗、うがい、マスク           
 着用の励行である。もし職員がインフルエンザ気味であれば、自主的に休みをとり、感染を広げ           
 ないようにする。来訪者用には、玄関等にアルコールの消毒液を置いたり、感染防止の協力を           
 お願いしている。このように対策をしても、入所者がインフルエンザを発病される時がある。
           
  治療は特効薬のタミフルの投薬である。さあ、インフルエンザの拡散防止に取り組まなければ           
 ならない。個室の入所者は、その部屋で治療に専念できる。相部屋の場合は、発症者を別室に           
 隔離する。複数人が発症していれば、発症者を集合させる。ベッドを移動させて、発症者の集合           
 部屋を準備するのである。未感染者は未感染者同士を相部屋にする。部屋の組変え、ベッドを           
 移動させるのである。集団で食事する食堂は、拡散防止のため使用禁止となる。各人は相部屋           
 で食事することになる。各部屋に介護職員を配置して、食事介助、見守り、口腔ケア等をする           
 ことになる。インフルエンザが治まるまで、このような状況が継続することになる。感染症が発生           
 しないように、私は予防対策の運用ルールを愚直に実行するのみである。       
       
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  つぶやき話のテーマ3:  褥瘡
           
  45年前、親父が寝たっきりになり、背中に赤い斑点を作っていた。           
 斑点は次第に大きくなり、じゅくじゅくになっていった。痛いと言っていた。
           
            
  私の親父が脳卒中で寝たっきりになり、背中の腰骨付近に赤い斑点を作っていた。段々、悪化           
 して、親父は痛いと言っていた。今から45年程前のことである。この病状を見ていて経過は記憶           
 している。その時分、床ずれと言っていたように覚えている。当然、介護という言葉さえない時代           
 である。近年、介護関連の知識を習得した際に、この病状を褥瘡ということを知った。
           
  介護施設では、寝たっきりの人が褥瘡にならないように、定期的に体位交換をしている。また、           
 エアマット様式の敷布団を利用して、背中にかかる圧力を軽減できるようにしている。それでも           
 褥瘡になられる場合がある。看護師による治療、介護職員の体位交換作業にもかかわらず、段           
 々と悪化していく場合は、非常につらい思いだ。その本人も、大変に痛い思いをされている。           
 何か根本的な治療や、特効薬がないものであろうか。45年も前からあった病気であるのだが。
           
            
            
  つぶやき話のテーマ4:  ターミナルケア
           
  誰でも自宅の畳で死にたいと思っている。           
 皆のためには、自宅でなく病院で死んでほしい。
           
            
  昭和30年代までは、自宅で老人が寝たきりになると、医師は往診してくれた。老人が危篤に           
 なると、医師が駆けつけて、老人の死亡を確認していた。それから葬式となった。
           
  何時の頃からか医師の往診が少なくなった。掛かりつけの医師を定めなくなったことにもよる。           
 要介護者が寝たきりになったり、自宅で訪問介護を受けていたとする。要介護者の様態が急変           
 して危篤に落ちいった。介護者がこの異変に気付き、救急車を呼んで病院へ輸送した。これは           
 筋書き通りの対応である。ところがその通りに行かないことさえある。要介護者が自宅で静かに           
 息を引き取った。朝、介護者が要介護者を起こしに行って死亡を知ったとする。すぐに救急車を           
 よぶ。救急車が駆けつけ、救急士は死亡を確認すると、病院へは運ばない。遺体をそのまま           
 自宅に置いて、救急車は帰っていく。この後、何をするか、ここからが本テーマに関連する。
           
 すぐに110番へ電話する。遺体を発見した。警察がやって来る。死亡事件の発生である。まず           
 第一発見者が容疑者として尋問される。まるで犯人扱いだ。警察よ、何か間違っていないか。           
 要介護者が突然の体不良で死亡したのに、殺人事件か否かを調べるのは、筋違いではないか。           
 いや、筋は違っていない。殺人事件でないとの確証をとっているのである。晴れて、病気による           
 死亡と認められた。死亡診断書が発行されて、やっと葬式になった。
           
  要介護者が介護施設で急死したとする。救急車が来ても、救急士は死亡を確認すると病院           
 へは運ばない。警察へ通報。第一発見者の介護職員が事情聴取を受けることになる。晴れて、           
 病気による死亡と認められた。死亡診断書が発行されて、やっと葬式になる。
           
  やっとテーマのターミナルケアになった。医者が常駐していない介護施設でのターミナルケア           
 とは何か? 要介護者にまだ命があり、救急車で病院へ運ばれて、医師や看護師に看護られ           
 ながら亡くなられる。これが筋書きである。これを失敗すると、とんでもないことになる。要介護者           
 にまだ命があり、救急車で病院へ運ばれた。病院で栄養失調と判断され、どんどん栄養補給を           
 されて体調を回復された。病院を退院し介護施設へもどってこられた。めでたしめでたしである。           
 筋書き違いである。ターミナルケアは、もう少しで亡くなられるであろうと思われる時点まで介護           
 して、存命中に病院へ搬送するのである。辛くて、悲しい介護である。           
     
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