京都新聞 2019年4月23日 22時25分 配信を読んで

 見出し

   不適切トイレ介助で飲食できず死亡 施設に2520萬円賠償命令

 

 概略内容

   滋賀県大津市介護付き有料老人ホームSに入居していた女性(当時91歳)が、2016年、不適切なトイレ介助で転倒した事故による摂食障害で飲食できなくなり死亡したのは、施設側が入居者の安全に注意する義務を怠ったのが原因として、遺族が施設運営会社に損害賠償を求めた訴訟の判決が、4月23日、大津地裁であった。裁判所は請求通り約2520萬円の支払いを命じた。

   女性は、2016年11月20日午前6時50分ごろ、トイレに横座りさせられ、介助職員が目を離した10~15分間に便座から滑落して顔面を負傷。摂食不能となり、2017年2月9日に亡くなった。

 

 判決理由:

   女性を洋式トイレの便座に横向きに座らせた介助について「身体能力が低下しており、滑落・転落の危険を伴う不適切な方法で、危険性を予見できた。正面向きに座らせて手すりを設置していれば、事故を回避できた」と指摘した。

   そのうえで、女性は転倒後に極めて短期間で食べ物を飲み込む力が低下したことから「滑落事故以外に原因はあり得ない」として、死亡との因果関係も認定した。

 

 遺族のコメント

   天寿を全うできなかった母の悔しさが認められた。余生の最後の時間を安全に過ごせるよう、施設は取り組みを進め、二度と事故が起きないよう心してほしい。

 

 

 私見 ぼやき

   天寿を全うできなかった女性(91歳)のご冥福を祈ります。

  本事案を遅まきながら掲載したのには、私の考え方がまとまらなかったからである。本民事裁判は施設側に業務上過失致死の責任があるとしたうえで、遺族に慰謝料2520萬円の支払いを命じたものである。

  本事案で、もし便所に手すりがついていたらどうなったであろう? 手すりがなかったから設備不良となったのであろうか。もし介護ワーカーが目を離す(別の仕事をする)ことなくトイレの前で見守りをしていたらどうなったであろう?見守り注意義務怠慢で介護ワーカーの過失であろうか。あれこれと悩んだのである。

 

  本判決に対して施設側は控訴せず、遺族側に慰謝料を支払うと思う。私が悩んだのは、本事案の再発防止策である。施設は便所を改装して、便座を前向きすわりに変えて、手すりも取り付けるであろう。ここまでは

誰でも実行する。問題は便所を指摘通りに改装しても、便座からの滑落事案は撲滅しない。滑落は必ず起こりえる。その撲滅策は介護サービス開始から20年たっても、まだ見出させない。転倒、転落、滑落事案の撲滅策がつくられれば、水虫の特効薬のようなものだ。介護施設の事故報告書の半数が消えてなくなることであろう。介護ワーカーの事故報告書作成時間が削減され、本来の介護実作業に時間を充てられる。非常に素晴らしいことだ。

 

  私が危惧しているのは、滑落等の再発防止策ではなくて高額な賠償金・慰謝料を払わないようにできるかその防衛策、すなわち経済的な損失の防衛策を検討されることである。施設の業務上過失致死傷で裁判沙汰にはならないように、高額な慰謝料を払わないで済むための施策を講じられることである。先ずは施設の顧問弁護士を確保する。さらに、施設と入所者との介護契約書で、施設側の過失をうやむやにするような契約条文を設ける。本契約書を締結しなければ施設入所ができない。要介護者と施設は介護契約書を締結して、施設での介護サービスが開始される。不明瞭な契約書に署名しなかったら入所できない。入所したい要介護者は多く、施設は介護ワーカーの求人難で入所を断るのである。このようなことが蔓延しないようにしたいものである。

  

  本事案が女性の自宅で発生したら、介護者(家族)の誰かがヱスケープゴート(生贄)になって、一生いびられることであろう。介護施設は介護のプロ集団である。お金をもらって介護しているのだから、ミスは許されない。遺族からすれば、当然の考え方である。ところが実態は、施設の介護ワーカーとなるのに介護資格は不要であり、普通の家族の一員(無資格者)が、介護しているのと同じだよ。ところが家族の介護者は無償で介助している。介護ワーカーは有償である、よってプロとしての責任がある。それなら、個人がボランティア精神で要介護者を支援して滑落事案になったら、個人に賠償責任が発生するのかな? あるとなれば、誰も介護ボランティアとして手は貸さないよ。

                        起稿            2019.08.15