第9章 高齢者虐待
          
  つぶやき話のテーマ1:  ミトン
          
  私はミトンと言われても、何のことやらわからない。台所で使うらしい。          
 鍋つかみ手袋と言われて、グローブのような物とわかった。
          
           
  要介護者の手にミトンをつけておくと、虐待にあたるらしい。私にすれば大き目の手袋だろう。          
 何で虐待なの?虐待の理由が明確にわからず、すっきりとしない。どうもミトンの取外しが要介護          
 者の自由にならないことにあるようだ。
          
  それではなぜミトンをつけるのであろう。それは手そのものに外傷等があり、手に外圧がかから          
 ないようにするためであろう。腕を骨折した時に、包帯と石膏で腕を外圧から守っている。このよう          
 な治療に伴う対応処理は治療者の自由にはならない。手や腕がかゆくて仕方ないので、ミトンや          
 石膏を勝手に取り外してしまうであろうか。このミトンや石膏の状態を虐待というのであろうか?          
 たぶん治療の一環と回答するのであろう。
          
  それでは想定を変える。手そのものに外傷等がなく、体の他の部分に外傷等があるとする。          
 例えば腕、胸、腰、太腿や足等に老人性皮膚炎があったとする。いたるところが痒くてしかない。          
 その要介護者は、体が痒くて仕方ないので、指先を立てて一生懸命にかきまくった。その内に          
 体はかき傷だらけ、ついには皮膚から出血している。さらに悪化すると化膿する場合も発生する。          
 このような時、治療のために体中に包帯を巻き付けるのであろうか。まるでミイラである。皮膚に          
 軟膏等をぬり、部分的にはガーゼやバンドエイド等カバーするであろう。しばらく経過観察する          
 であろう。治療処置はなされているが、それでも痒い時がある。そのような時、指先が外圧者に          
 なるのである。手や指先で傷部をカバーしているガーゼやバンドエイド等を取り外す。その傷部          
 を一生懸命にかきむしるのである。見守っている介護職員は仕方なく、手袋をしてもらって傷部          
 の衝撃を和らげようとしているのである。5本指の手袋よりも、1本指のミトンが傷部への衝撃を          
 和らげられるとして、利用しているのである。
          
  このように治療の延長にてミトンを使用する場合は、虐待と一概に言えないと思う。要介護者          
 及びその家族・保証人と協議して同意の上に利用するようなことで、虐待扱いではないとしても          
 いいだろう。
          
           
           
  つぶやき話のテーマ2:  つなぎ服
          
  木工工作や自家用車整備等でつなぎ服を着るのが流行した。          
 このつなぎ服を要介護者に着衣させると虐待扱いになる。
          
           
  介護現場ではどのような場合に、つなぎ服を利用したくなるのであろうか。想像してみよう。          
  *ミトンと同じく、胸、腰、太腿等に老人性皮膚炎等があり、その治療の一環として使用する。          
  *特に陰部に、老人性皮膚炎等があり、陰部を触らせないようにする場合もあるだろう。          
  *排泄がらみで、紙おむつ内にある大便を、手で触れないようにしたい場合もあるだろう。          
  このように治療の延長及び異常行動の予防対策として、つなぎ服を使用する場合は、虐待と          
 一概に言えないと思う。要介護者及びその家族・保証人と協議して同意の上に利用するような          
 ことで、虐待扱いではないとしてもいいだろう。          
        
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  つぶやき話のテーマ3: 要介護者の反逆
          
  要介護者は時々、嫌だと大声を発することがある。介助について否と言っている。          
 一方、声を発することができない人は、体や行動で表現される。
          
           
  入浴や排泄は、介助計画・スケジュールに沿って実施している。排泄は個人差があるので、          
 要介護者の希望に沿って随時に追加介助する。定期的な介助時に行きたくなければ、いや、          
 行かないと拒否される。小さい声もあれば大声もある。声が発せられる場合は、否との回答が          
 介護職員に明確に伝わる。

 

          問題は声を発せられない場合である。その特異な行動を書いてみる。          
  *休憩にお茶を出して勧めたところ、普通は余り動かない腕が動いて、お茶を振り払われた。          
   当然、お茶がこぼれた。目をつむってあった。声掛けして茶を進めたのに。ショックだ。          
  *休憩にお茶を出して勧めたところ、私をにらみつけ、口をもぐもぐし、つばきを拭掛けられた。          
   お茶はこぼれなかった。給茶前から私をにらみつけていた。つばきを何発か拭掛けられた。          
   その後、「馬鹿」と言って、さらに私をにらみつけた。          
  *定期的な排泄介助に行きたくなくないようで、移動介助中の介護職員の脚を蹴飛ばす。          
  *定期的な排泄介助に行きたくなくないようで、移動介助中の介護職員の腕に爪を立てる。          
  *食事の配膳を誰よりも早く、一番にしてほしい人。順番が少し遅れると、介護職員の手甲を          
   つねる。顔を見合わせて、遅れてごめんなさいと謝ってすませる。
          
  全て小さなにくじである。それでも要介護者にとっては、精一杯の意思表示と思う。意思表示と          
 言うより、介護職員に対する要介護者の反逆かもしれない。要介護者は一人一人の介護職員を          
 把握している。この職員は優しく扱ってくれる、あの職員は雑に扱う等と、顔をしっかり記憶して          
 おり、扱いに納得いかない時は、特異な行動をすると思われる。要介護者からの仕返しだ。
           
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